2016年1月19日火曜日

BABY RECORDS' 2015 FAVES TOP 10+5 - Films

 気がつけば1月も半ばを折り返して、遅ればせながらの2015年お気にいり映画の年間チャートだよ。明後日には年間ベスト&トホホ特集が載った『映画秘宝』最新号も出ることだし、焦ってぎりぎりセーフの投稿。これで落ちついて本屋に買いにいけそうだ。
 大晦日のブログ記事『2015年に劇場で観た映画』に挙げた全作品より、新作映画のトップ10と旧作映画再上映/初上映のトップ5。まずは“新作映画”のほうからいってみよう。


☆第1位
マッドマックス 怒りのデス・ロード

 やっぱり圧倒的だったもの。予告編で期待じゅうぶんながらも「さすがに『マッドマックス2』にはかなわないだろう」なんて思っていたけどさ。構想から実現までたっぷり時間がかかったぶん、練りに練り込まれておそろしく進化しちゃったもんなあ……。ジョージ・ミラー監督の懐の深さにつくづく感嘆。公開翌日と7月あたまの2回観たっきりで記憶は薄れつつあるけれど、脳裏にふとよみがえるのはシャーリーズ・セロン演ずるフュリオサの、危うくもしゃんとした姿だったりするんだな。




☆第2位
ヴィクトリア

 赤坂の東京ドイツ文化センターで催された特集上映会『2015ドイツ映画 映像の新しい地平』にて。じつは同じ日に上映されたドキュメンタリー『ファスビンダー』がお目当てだったんだけど、1回券が600円、2回券なら1,000円という入場料に惹かれ、詳細知らぬままついでの鑑賞で不意打ちくらっちゃった。2時間以上の全編カットを割らずにいっきに長回しという無茶な試みが、ばつぐんの効果を上げてぐいぐいひき込ませるのだから凄い。ベルリン映画祭で銀熊賞をとったというノルウェイ人撮影監督ストゥルラ・ブランヅ・グロヴレンの巧さはもちろんながら、配役もじつに魅力的。とくに不良グループのリーダー格ゾンネ役のフレデリク・ラウね。気のよいはぐれ者のやりきれないさびしさが、もうたまんなかった。そうそう、冒頭でいきなり流れる曲はDJ・コツェの 'Burn With Me'。ダンスフロアのシーンの臨場感が生々しいのは、やはりクラブ文化の根づく西欧ベルリンならではということかな(パリ近郊が舞台の『EDEN/エデン』はさらにリアルだった)。あとから思い返せば話のおかしな点は多々あれど、つき進む迫力とうず巻く感情がそれを気にさせない傑作だ。
 ちなみに超長回しという共通項のあるオスカー作『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』はどうもぴんとこなかった。ついでにいえば、それとよく比較される『セッション』は(菊地成孔氏の酷評同様に)めずらしく公言したいほど音楽的にきらいだ。




☆第3位
スター・ウォーズ フォースの覚醒

 第1位の『マッドマックス 怒りのデス・ロード』どころじゃなく期待に胸ふくらませ、それなりに情報をかき集め、YouTubeに予告編の新しいフッテージがアップされるたびにひたすらくり返し、あんなかな、こんなかな……なんてやりきった果ての公開2日め。IMAX3Dの良席を確保し臨んだ初回では、惑星ジャクーでミレニアム・ファルコンの姿が映ったあたりから、3D眼鏡の内側がじわーっとうるみ始めてさ(笑)。地球上の40代中年に何千万と観測されただろう典型的反応を示しちゃったなあ。ともあれ、これ以上を望むのはさすがに欲ばりでしょ。主人公レイを始めとする愛すべき新たなる希望が、ついに前進を再開したあの世界をどう転がしていくのか……。お手並み拝見といきたいが、次作の監督とその次までの脚本をひきうけたライアン・ジョンスンはたいへんだ。エンド・クレジット終盤でおなじみ、アメリカ映画協会(MPAA)の通し番号が5万の大台に突入したのを、初めて目にした1本でもある。 ところで気になる50000番きっかりは、はたしてどの映画だろうね。




☆第4位
インサイド・ヘッド

 めずらしくアニメイション映画が上位いり。専門的な精神医学や脳科学をふまえ、頭のなかで起きていることをもののみごとに視覚化して、なおかつ老若男女問わぬエンタテインメントに仕立てあげちゃうんだから、ピクサーは凄い。主人公のライリーとは性別もちがえば育った環境もまるでちがうのに、いちいち心あたりがあって揺さぶられるもんなぁ……。ご多分にもれずビン・ボンにはしっかり泣かされたしさ。抽象思考ゾーンの描写なんかも傑作。絵柄に国産アニメのようなオタク感というストレスがないから、よりまっすぐ届いてくるみたい。エンド・クレジットのデザインや音楽も好みだな。




☆第5位
キングスマン

 2015年は雑誌で特集が組まれるほどに、スパイ映画の大作が目白押し。ふたを開ければ、辛気くささが板につくクレイグ版ボンドは、荒唐無稽への回帰がちぐはぐに思えたし、スーパーマン演ずるナポレオン・ソロは、各シーンのテンポ感がいちいち妙で乗れぬまま終わり、びっくりスタント記録更新のイーサン・ハントですら、なんとなくサーヴィス精神が空回り……。そこでいちばんしっくりきたのが、数奇な生いたちをバネに這いあがり、紳士のマナーを武器にした新人諜報員エグジーなのさ。見守る上司に『裏切りのサーカス』(2012年チャート第4位)からコリン・ファースとマーク・ストロングの愛憎カップル、さらにマッドネスも歌った元祖ハリー・パーマーとくれば鬼に金棒。ずらりそろったひみつ道具を筆頭に、お気楽ながらも細かなディテイルが愉快痛快だ。大好きなブライアン・フェリー 'Slave To Love' の選曲もうれしい。




☆第6位
ピクセル

 なんたってアダム・サンドラー演ずる主人公のサムが1982年に13歳だからさ、1969年生まれであるわが同世代という設定がひじょーに大きい。出てくるゲームのほとんどがリアルタイム体験だもの。放課後のアーケードというか“ゲームコーナー”(笑)で、『Qバート』になぜかハマった日々がここにきて活きるとは……。こんなに楽しめちゃって大喜びな反面、当時を知らない世代が観てもちんぷんかんぷんじゃないかと、余計な心配もしたくなるほど対象がピンポイントなのだ(ラジー賞候補いりはそれゆえか)。安易な企画ものかと思いきや、立体化して攻めてくるゲーム・キャラクターの視覚効果はサイケデリックですらあるし、全編で笑いどころのヒット率も高く、ていねいに作りこまれているからあなどれない。娯楽作で鍛えたクリス・コロンバス監督の職人技が冴える名品でしょ。




☆第7位
プリデスティネーション

 「卵が先か? にわとりが先か?」なんて、ひねった頭がくらくらするよなロバート・A・ハインラインの短編『輪廻の蛇』(1959年)を原作とする時間SFもの。1970年のさびれた酒場のシーンから、なんだかやけに懐かし~い気持ちに包まれて、きゅーっと胸がせつないままの心地よい97分間が忘れられずにランクいり。鞄型タイムマシーンや衣装などのレトロなガジェット類のみならず、豪州女優サラ・スヌークのくせのある童顔がまた妙にノスタルジーをかきたてるんだな。『プロメテウス』(2012年)や『インターステラー』(2014年)もそうだったが、熱心なSFファンでない身としては、空想科学的な優秀さよりも付随するフィーリングや質感にこそぐっとくるようだ。




☆第8位
誘拐の掟

 2015年は最初の1本『96時間 レクイエム』でいきなり出鼻をくじかれた(笑)。それでもステイサム映画と同じくなんとはなしに観にいっちゃう定番が、リーアム・ニーソン映画なのさ。なかでもローレンス・ブロックの探偵マット・スカダー・シリーズを原作とするこいつは意外なほど満足度高く、いっきに名誉挽回。過去に傷を持つくたびれた私立探偵という時点でぐっと入り込めるうえに、ハラハラのツボをきっちり心得た、たんねんな作りの地味渋ノワールだ。画才があり病弱な浮浪少年との交流も心和むねぇ。とそれだけならば、トップ10入りに満たないかもしれないが、試しにDVDを借りたスコット・フランク監督の前作にして初監督作『ルックアウト 見張り』(2007年)が、これまたじつに変わり種のひろいもの。『マイノリティ・リポート』(2002年)を始め脚本家で名をなすフランク氏の監督仕事をもっと観たいという、期待値込みでの第8位なのだ。




☆第9位
ブラックハット

 マイクル・マン監督のフィルモグラフィでは埋もれがちな1本だろうし、ロットゥン・トメイトズなどを見ても世評はけっして高くないご様子。でもでも、登場人物のきりりと端正なたたずまいと、ぜんたいがメタリック加工されたような画面の質感が、気温も落ちついた5月の夕暮れどきの鑑賞にすっきり快くってさ。絵に描いたような美男美女の中国人エリート兄妹という、おそらく大陸の観客向けのキャラクターが、おなじみスタイリッシュなL.A.の夜景にほどよいオリエンタル風味を漂わせるのがまたよし。というか、つまりは湯唯演ずるリエンの容姿にすっかり痺れちゃったわけさ……。以上!




☆第10位
私の少女

 同性愛への偏見、子どもや外国人労働者の虐待など、さまざまな問題が絡むなか、なにより悲しみ傷ついた果てのぽかんと空虚な心の状態が、ひしひしと伝わるところに惹かれたね。ふだんならミニマルで清潔すぎるように思える描写が、どれも意味をもってしっくり馴染んでさ。チョン・ジュリ監督はこれが長編第1作というからたいしたもの。よくいわれるように、韓国映画界はつくづく層が厚いんだな。あらためてペ・ドゥナのエクセントリックな顔つきにも感心。まじまじと見入ってしまったよ。





 つづいて“旧作再上映/初上映”部門だよ。全166本のうち、昔の映画はわずか41本のみという傾向は例年どおり。それでもふり返ればなかなかよい作品に巡り会えたと思えるトップ5をどうぞ。


☆第1位
メナハム・ゴーラン映画祭

 またまた足を向けて眠れない、映画ファンの味方ボイドが開催したニクい特集上映。ドキュメンタリー『キャノンフィルムズ爆走風雲録』の公開にあわせ、わが10代を彩ったあのロゴ・マークが忘れられぬ娯楽の殿堂の主、故メナハム・ゴーランの関連作を2週間で13本とりそろえた映画祭が堂々第1位だ。けっきょく観たのは計4本だが、どれもこれもオモシロいんだもの。かつて『ひとり Altogether Alone』(1999年)というディスクガイド本に、ラスト・シーンと絡めた中学生時代の想い出を綴ったこともある、イスラエル産性春映画の傑作『グローイング・アップ』(1978年)。そして公開当時見逃したままだった、チャールズ・ブコウスキー脚本の酔っぱらいメルヘン『バーフライ』(1987年)。この2本がハイライトかな。後者はミッキー&フェイという、いまや整形で見る影なしのご両人が、憧れの的だった儚き記録。鑑賞後の飲酒を自粛させるほどの重度アル中ぶりは、むしろ清々しくもある。
 シネマート新宿の大画面に『フットルース』(1984年)や『恋人たちの予感』(1989年)をよみがえらせた真夏のレイト・ショウ "Flashback 80s & 90s "も、同じくボイドの企画。観客の入りはさみしかったが、今後ぜひ定着させていただきたい。




☆第2位
ボクシング・ジム(2010年)

 監督本人が来日もした2011年の回顧上映には及ばないまでも、代表作をまとめて観られる好機だった、シネマヴェーラ渋谷の特集『偉大なるフレデリック・ワイズマン』。淡々と映しだされる場面に時間感覚を忘れ、ついうとうとしながらも、題名どおりテキサス州オースティンのジムを舞台とする、ここでのリズミックな動きと音には思わずひき込まれた。トレイニングを重ねるにつれ、皆の顔つきがよくなってくるんだよねえ。ひとり黙々と運動するのが好きな者としては、およそ4年半ぶりにスポーツ・ジムに通う伏線にもなった1本だ。広々とした緑を散歩する気分に浸れる『セントラル・パーク』(1989年)も、もうひとつのお気にいり。
 ワイズマンに影響をうける想田和弘監督の新作『牡蠣工場』は、もうすぐ公開。




☆第3位
光陰的故事(1982年)

 デジタル・リマスター版で再上映された『恐怖分子』(1986年)の、風のはためきもたしかに心地よかった。けれど、ついでのようにモーニング・ショウでかかった台湾ニュー・ウェイヴ4組オムニバスの前半2編、『怪獣くん』(タオ・ドゥーツェン監督)と『希望』(エドワード・ヤン監督)のほうに、すっかりやられちゃったのだ。うしろ向きな題材なれど、あのなんとも瑞々しい懐かしさ、素朴さと危うさには抗えなくってさ。決め手はヤン監督のデビュー作『希望』で自転車練習中の、愛すべき近眼ちび助くんだ。


☆第4位
デッドロック(1970年)

 生ぬるい強風が吹く12月半ばの夕暮れどき、上映会場はなんと上智大学の四谷キャンパス。図書館の一角にある広い会議室でたったいちどの本邦初上映だもん。主催の学生さん自らつけた字幕は拙く、けっして観やすい環境でもなかったが、カンが音楽を手がけるカルトな西ドイツ製ウェスタンを、こんな珍しい場所で無料で楽しめるなんて最高でしょ。早稲田大学文学部の荒井泰助教による、上映前のジャーマン・ニュー・シネマ講演も勉強になった。意欲的でユニークな試みに拍手をおくろう。




☆第5位
フランク・ザッパ&ザ・マザーズ/ロキシー・ザ・ムーヴィー 爆音上映(2015年)

 長年の愛聴盤も数枚あるものの、うるさ型マニア向けな印象にいまだ腰がひけちゃうのが、膨大なカタログをもつ故フランク・ザッパ作品。なかなか値が張るDVDとCDの2枚組にも躊躇していたら、渋谷クラブ・クアトロで爆音上映とのうれしい情報が……。思いきってマニア諸氏の懐に飛びこんでみたわけさ。最前列の端っこに陣どれば、臨場感ばつぐんのめくるめく離れ業ナンセンス音楽にもう夢中。つぎつぎにマレットを持ち替える若きルース・アンダーウッドが、これまた素敵で驚いた。あっという間の2時間強に大満足で、けっきょくソフト版も欲しくてたまらない今日この頃なのさ。素材じたいは1973年のライヴ映像なので、こちら部門でのランクいり。





 ぼやぼやしていたらタイミングを逸してしまった、お気にいり盤の年間トップ30(パート12)および、お気にいり“再発盤&発掘音源盤”のトップ10も、今月中には投稿する予定だよ。

El Cinnamons Vol.2

 チャーリー宮毛氏命名の知るひとぞ知る概念“シナモンフィーリング”を普及/追求するエル・シナモンズによる同人誌、"El Cinnamons"。できたての第2号が手元に届きました。愛読した前号にひきつづき、ごきげんな仕上がりです。


 昨年うれしいことに原稿依頼をいただき、レコードを選んで書いた記事『BABY RECORDSの10枚』も見開き2ページに掲載されています。おまけのコーム型しおり がまた粋なんです。

  詳細は、発行元オフィス・フラヌールのブログ記事をご覧ください。必読。